
藤井 啓史
エボ7〜9
商品開発プロジェクト
マネージャー
現在のエボIXをはじめ、同じプラットフォームを持つエボVIIのCT系ランサーエボリューションから商品開発プロジェクトでマネージャーを務めるのが藤井氏。入社は1987年で、入社後10年は操縦安定性からインテリアの表示、操作系、そしてモーターショーのコンセプトカー開発などのさまざまな先行研究を行ない、その後、99年より商品開発プロジェクトに異動し、ランサーエボリューションの開発を担当。現在では発売間近のエボIXMRの開発最終段階を迎え、少しホッとしている様子。
フルモデルチェンジのエボリューションVIIでは、外観の質感を高めることに力を入れ、従来までオーバーフェンダーとしていた部分をサイドパネル一体型のブリスターフェンダーへと変更し、新しいスタイリングを持たせた。また、ACD(アクティブセンターディファレンシャル)という新機能を搭載。このシステムは前輪と後輪の回転数の拘束力を制御し、トラクション性能と操舵応答性を高い次元で両立するためのもので、三菱がモータースポーツ(WRC)で開発したシステムを市販車にフィードバックした新しい4WDシステムだった。これによって、従来モデル以上の走りの性能を手に入れることとなった。
ランサーエボリューションVIIIでは、従来のAYCの約2倍の制御能力を持つスーパーAYCを投入し、旋回限界とトラクション 性能を高めるとともに、より質感の高い走行性能を持たせるべく開発を行った。さらに6速マニュアルミッションも新たに投入し、幅広い領域でスポーティーな走りに対応できるようになった。また、ランサーエボリューションはこのモデルから世界進出を果たすことになる。テレビゲームの影響でファンが増え、以前より強い要望が出ていた北米での販売開始。その1年後にはヨーロッパデビューも果たす。これまで国内を起点にさまざまな進化を遂げてきたランサーエボリューションが、海外市場へ向けて、いよいよ活躍の場を広げ始めたのだ。
ランサーエボリューションVII、ランサーエボリューションVIIIとニュルブルクリンクサーキットでの開発テストを繰り返していく中で、「もっともっと走りの質感をレベルアップしたい」という欲求が開発陣の間で広がっていった。そして生まれたのが世界的に定評のあるビルシュタインダンパーの採用と、アルミルーフパネルの投入だった。実はこの2アイテムは、当初は、次期ランサーエボリューションIXに向けてのものだった。しかしいずれも開発的には予想より早く性能面でまとまっていたので、VIIIの派生モデルVIII MRを作り、そこに採用しようということになったのだ。つまり、「このアイテム装着による効果を見るのが、IXまで待てない!」と開発陣の誰もが考え、VIII MRデビューにつながっていったわけだ。
ノンターボエンジンの市販車が可変バルブタイミング機構を多用する中、エボリューションの4G63エンジンに、可変バルブタイミング機構がこれまで採用されなかったのは、開発陣の間に「高性能ターボエンジンである4G63に、バルブタイミング制御を設けて果たして性能面でどれだけの効果が望めるのか」という考えがあったからだ。とはいえ採用をまったく考えていなかったわけでなく、どのような状況でなら大きな効果が得られるか、リサーチを続けてきたと言ったほうがよいだろう。結果、タービンとの組み合わせ方次第で効果が期待できるということが判明。ターボの特性改良で低中回転域でのトルクを確保するともに過給圧のレスポンスを高め、バルブタイミングの制御で、高回転域の性能を確保することによって全域で高性能、高レスポンスを実現することに成功したのだ。ランサーエボリューションIXでは、このほかにリアサスペンションにファインチューニングを施したり、煩わしい音を低減させるなど、走り全体の質を高めることにも努めた。年齢層が高めのユーザーも違和感なく走れて、ドライバーとクルマとの一体感を楽しんでもらえるクルマ・・・それがこのモデルの最終到達点だった。
ランサーエボリューションワゴンの開発にあたって、エボリューションの走りをワゴンで実現するためには、ボディ剛性が重要であることに着眼。しっかりとしたボディ作り、特にリア周りを徹底して補強した。また、ワゴン形態でリアが重くなったことにより、セダンに比べ前後の重量配分が良化。結果、ランサーエボリューションのスポーティな走りを継承しつつ、アウトドアなどでも活躍する多彩なユーティリティを備えた、三菱ならではのクルマ・・・ランサーエボリューションワゴンが出来上がったのである。
WRCのグループAに参戦するということで、モータースポーツのベース車として登場したランサーエボリューション。その間、終始唱えられてきた「走る、曲がる、止まる、の性能向上」は、モータースポーツのためだけではなく、いつの間にか市販車としても大切な要素になっている。これは、モータースポーツのために誕生したランサーエボリューションであるが故に、開発に携わるメンバーで自然に受け継がれてきたことであり、今後も引き継がれていくに違いない。